Mercator

コンビニの帰り道。ビニル袋をぶら下げて 
杉並区宮前5丁目あたりを
シーナは 歩いてる。「謎掛けみたいね・・・」

 蝉の鳴いている間は 夏なんだよ 

同僚のヨシが 言った言葉を思い出す。
セミって夜、涼しいと鳴かないしね」
閑静な住宅街、ビニル袋と足音だけが響く
静かな夏の夜だ。
小学校を 通り過ぎようとした時
後ろの方から 声がきこえる。
つまり 小学校の門のほうから聞こえる。
女の人のような声で数人で 
ぼそぼそ話す声が 聞こえる。
恐怖心とともに好奇心にそそられて
その場に立ち止まり 視線を右下に向けて
じっと耳を澄ます。なに?なんの声?
額に汗が 流れる。

不思議に 声は消え ゆるやかな夏の風に
コンビニのビニル袋が
ビリビリと なびく音だけが あたりに響く。

気のせいか。
何事もなかったように
それから 振り返らず そのまま
まっすぐアパートに 帰りました。

翌朝 小学校の前を通ると
校門の中に 無数の蝉が 車1台分ぐらいの範囲で
羽をむしられ 胴は 何かに噛みちぎられたような
姿で 散乱していた。

猫か なにかの 仕業かもしれません。
だれかの いたずらかも しれません。
シーナが聞いた
昨日の声の主の 仕業かもしれません。
月光の下で 樹液をすする蝉達よ

 蝉の鳴いている間は 夏なんだよ 

鳴かない夜は 夏ではない どこか別世界への入り口かもしれません。
セミの鳴かない 涼しい夜は ご注意を。

「蝉殺し」